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これからどうする?わたしの街、暮らし「鹿児島で〈公共〉と〈文化〉を問い直す」レポート

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      これからどうする?わたしの街、暮らし                        「鹿児島から<公共><文化>を考える」リポート  

 

日時 20201113日開催

 

                       会場 ポラーノ・ポラーリ会議

 

主催 つくる学校

 

                                                            参加人数 9

 

                               

 

世界が一変したまま、それが日常化されつつある今日。一度歩みを止め、これまでそしてこれからを見つめ直す機会ととらえる動きもあります。

 

つくる学校では、あわせて鹿児島市長選挙を一つの転換期ととらえ、鹿児島市のこれまでの文化芸術政策・活動の課題や展望専門家と市民がともに考える機会を作りました。

 

 

 

1.日本の文化政策の課題

 

はじめに、文化政策の専門家である大澤寅雄さん(プロフィールは文末)から日本の文化政策の流れ(明治期に「文化」の概念移植⇒80年代「心の豊かさ」のための文化活動推進⇒90年代ハコモノ・ハード先行⇒00年代行財政改革による指定管理者制度等の普及・創造文化都市政策・文化の担い手多様化⇒2010年~文化芸術の社会への活用・他の政策に活用←いまココ)について概要をお話いただきました。

 

 

 

また文化芸術振興基本法を一部改正した「文化芸術基本法」2017年)、「文化芸術推進基本計画」(第1期・2018年)のポイントについても伺いましたが、これまでの国の施策を振り返ると、「なぜ文化芸術が必要なのか」、「なぜ国や自治体は文化芸術を振興する必要があるのか」という問いに対して、いつの時代にも共通の、普遍的な回答があったわけではないと大澤さんご指摘されるように、文化芸術に対する確固とした理念を定め、位置づけし、それをふまえ育むという態度があまり見えてこないことが分かりました。現在のおおまかな流れとしては、芸術文化やそれに関わる人々や団体を振興するというより、あらゆる分野に活用していく方向性のようです(「本質的価値」を「社会的・経済的価値」に活用するが、その逆は見えてこない/大澤さん談)。文化芸術を振興する根拠が曖昧なこと。ここに諸外国から遅れをとる、文化行政課題の本質が見えてくるようです。

 

 

 

2.コロナ対策で注目されたドイツ、京都、愛知。

 

そこでコロナを経験した結果見えてきたことは、各国・各自治体の文化芸術に対する態度の違いでした。

 

特にドイツの文化芸術分野に対する力強い支援や表明は、世界中で話題となりました(「芸術とは、人間の生存という根本的な問題に向かい合う上で不可欠なものであり、特に今のように、確実性が崩壊し、社会的基盤の脆さが露呈し始めている時代には欠くことができないものである」ドイツ首相府国務大臣兼連邦政府文化・メディア大臣)。
今年2か月間ベルリンに滞在した大澤さん。劇場やホールなどが主体的にコロナで仕事を失った音楽家やダンサーなどに仕事の場(収入を得る場)を作り出す様子を見てこられました。文化芸術の担い手を〈趣味の延長〉〈好きなことをして生きている〉などと考える傾向はまだまだ日本では根強く、ドイツのように必要不可欠な専門性をもった職業と認識されていないことが、日本のコロナ政策の中でも透けて見えるようです。

 

 

 

また、地方自治体でもコロナにおける文化芸術支援策として、アーティストによる動画配信助成および給付金・支援金事業などが進められました。なかでも京都市愛知県の手厚さが注目されましたが、それは日頃の文化行政における文化芸術に対するしっかりとした考えをもっているか否かの差が大きいのではと、大澤さんは分析されていました。

 

ちなみに、鹿児島県もアーティストによる動画配信の支援をしていたようですが、全国と比較すると、残念ながら少額、小規模(採用件数)であったとのことです。あわせて、そもそも動画配信助成自体が、コロナ禍で困窮した立場にある文化芸術関係者のニーズにあっていたのかどうかという検証も必要とのことでした。

 

 

 

3.「何に困っている?」文化芸術関係者への調査結果

 

 以下は大澤さんや大学教授たちが、福岡県内在住の特に団体に所属していない文化芸術関係者を対象に、コロナによる影響を調べるため今年5月に自主的に緊急調査し、分析した結果です(「福岡における文化芸術関係者の新型コロナウィルスの影響に関するアンケート調査)。

 

    雇用環境の脆弱さと不安定さ

 

    収入損失の規模と今後の影響(収入の損失の平均額が、個人は約44万円、事業所では約632万円)

 

    先行施策とニーズのギャップ(動画配信や無観客公演などの支援にあまりニーズがない)

 

 

分析結果を福岡市と福岡県に提言としてまとめ、提出されました。その後、この動きは全国7か所に広がりました。ほか、文化醸成を生態系に重ね、持続可能な方法を提案してくださいました(別途資料参照)。

 

 

 

 最後に、再びドイツ首相府国務大臣兼連邦政府文化・メディア大臣の言葉を紹介。

 

1945年以降、民主主義に立ち戻るために苦難の道を歩んだドイツは、民主主義を憲法上の高い地位にまで引き上げて敬意を示しましたが、それにはそれだけの理由がありました。その背景には、芸術家という存在に対する信頼があります。つまり、何事にも疑問を持ち、想像力と旺盛な実験的精神に満ち、矛盾を突き挑発することで、公共の言説に活気を与え、民主主義を政治的な無気力感や全体主義的への偏向から守る人々、それが芸術家だという確信です。ですから、芸術家や文化機関は当初から、連邦政府がフリーランサーや小規模事業者のためにまとめた緊急支援対策の対象となっていたのです。」

 

 

 

4参加者(市民)によるディスカッション

 

(参加者:イラストレーター、教育関係者、映画関係者、音楽関係者、美術関係者、編集者など)

 

第二部(45分)は大澤さんの話を受けてのディスカッションでした。

 

 

 

〇現在の鹿児島市の文化政策は、各分野を広く浅く拾っている印象 ⇒果たして効果は?

 

〇鹿児島は既存の団体の地元志向が強い? ⇒活性化には外部からの視点外からの風が必要では?

 

〇グループ、団体等の横のつながりが弱い ⇒そもそも数が少ない?鹿児島では新しい動きが生まれにくい?

 

〇芸術家をはじめ、アートコーディネーターやマネージメントをする仕事も認知されていない ⇒文化芸術に携わる人々が、そこで収入を得て生活をしていくレベルではない

 

〇そもそも文化政策に関心のある議員はいるのか市長は関心があるのか? ⇒議会質問をふりかえると、あまりいない印象文化団体から議会への提言なども特にない。 ⇒文化芸術が重要な施策と捉えられていないのでは?

 

 

 

以上の意見交換を経て、大澤さんから、

 

〇これまで全国の自治体は、地元の文化協会などと共に政策を推し進めてきたが、会は高齢化・会員の減少により弱体化してきている。自治体は現場との別の繋がり方を模索する時期にきているのでは。

 

〇状況を打破するには、共通の利害をもった小規模の集まりがつながり声をあげ届けることが大切。

 

〇コロナは、文化芸術関係者がきちんと「職業」としてやっていることを位置づける機会では? とのアドバイスをいただきました。

 

 

5.おわりに

 

  鹿児島の現状として、他都市と比べ質の高い芸術体験に触れる機会が格段に少ない印象があります。たとえば、国内外の第一線で活躍する鹿児島ゆかりの文化芸術関係者は県外に数多くいますが、彼/彼女たちが鹿児島で発表や活動をし、市民が享受する機会が限られていることは大変残念に思います。多様性を受け入れる文化の土壌が思うほど培われていないのかもしれませんし、受け入れる仕組みの問題なのかもしれません。しかし、優れた芸術家の表現は新たな発想や視点を芽吹かせるため、いきいきとした市民生活や社会のイノベーションには欠かせません。人の力は街の活力へと繋がります。

 

風が素敵な種を運んできたときに、ふかふかの文化の土壌を用意しておきたい。そこで小さな芽がでた時に、水と栄養を補給し見守っていく。小さな芽が連なることで、いつしか実り多き畑や森林となる…。議論を深めるには、今回は時間が足りませんでしたが、引き続き同じテーマを設定し、新たな動きを生み出すための学びや発信の機会をつくっていきたいと思います。

 

       つくる学校(文責:原田)

 

 

 

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大澤寅雄「鹿児島で〈文化〉と〈公共〉を問い直す」資料(転載禁止)
201113鹿児島つくる学校.pdf
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