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おかえりアーティスト・トークvol.2 高嶺格

帰省のついでに話を聞く通称コバンザメ企画、「おかえりアーティスト・トーク」2回目ゲストは美術家/演出家の高嶺格さん。
実はつくる学校のロゴデザインも高嶺さん作で、コロナ禍前2019年には「ココロをくすぐる×ジブンをひらく 自己表現のためのワークショップ」講師も担当してくださるなど、つくる学校ではおなじみの先生です。
今回は鹿児島大学での講義の前に、一般向けにぜひトークをということでお願いし、ご快諾いただき実現しました。

鹿児島では日常的に現代美術に触れる機会が少ないこと、またそれによって現代美術になじみが薄いこと、さらにはトップランナーの話を聞くチャンスも限られていることなどを事前に高嶺さんと共有しました。そこから、トークでは身近な暮らしや同時代の社会の動きと美術が連動し、接続していることを意識できるような作品をピックアップしていただくことに。
まず導入としてベネチア・ビエンナーレ出品作で代表作の一つである〈God Bless America〉(映像インスタレーション/2002年)が突然大音量とともにはじまりました。男女二人が2.5トンもの巨大な油粘土で顔を作り、9.11後にアメリカで繰り返し流れた「God Bless America」を歌わせるために苦闘する様子がユーモラスに描かれています。粘土に歌わせているのか、もしくは粘土から働かされているのか。作品では構図の反転が示唆され、そこからは戦後脈々と続く日米関係についても考えさせられます。絵コンテなし、ぶっつけ本番で初めてクレイ・アニメーションに挑んだことなど制作秘話も。続いて東日本大震災翌年に水戸芸術館で開催された大規模な展覧会〈高嶺格のクールジャパン〉(2012年)。日本中どこででも目にする「明るい標語」が大量に点滅する部屋は、その状況に慣れてしまっていないかという問いとともに、自分が何によってどう作られてきたのか無自覚でいることの危うさも発していました。鑑賞者は仕掛けが施されたいくつもの展示室を通り、国家やその制度、当事者の見えにくい痛みや蔓延る差別意識、そして自分自身を省みます。展覧会そのものが、3.11を経験して立ち止まり、今後の日本社会や自分の暮らしに思いをめぐらす演劇的な装置のようでした。
そのほか「スーパーキャパシターズ」(2011年)シリーズや、安倍元首相が国会でついたとされる嘘の数118から着想を得た最新作「118の除夜の鐘」(2021年)の映像(今回のために急遽編集していただきました)、プロジェクション・マッピングされた京都市役所前が徐々に通行人を巻き込んで巨大なダンスフロアと化す「ジャパン・シンドローム ベルリン編」(2013年)、最後に鹿児島だからということで横浜トリエンナーレ2005に出品された巨大インスタレーション作品「鹿児島エスペラント」(2005年)もご紹介いただきました。
ご本人曰く、鹿児島に戻ってきたら息子モードになるところを、あえて「東京弁で話します」とお仕事モードにシフトチェンジしていただいた今回。定員を超える10~50代の多くの方にご参加いただき、関心の高さが伺え、手ごたえを感じました。高嶺作品はその場限りで成立するものが多く、また体験的な要素を含む作品もあるため、ぜひ遠くても会場まで足を運んで実際に作品を体感してもらいたいと強く思いました。
ん?
というか、鹿児島市内で見たい。
鹿児島でも見るんだ!という思いを諦めず持ち続けたいと思います(文責・原田)。