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勉強会「もっと知りたい!LGBTQと理解増進法」

レポート①

 

 

 

つくる学校は過去2回、アートを手がかりにしたLGBTQの講座とワークショップを開催している。近年、美術の分野もジェンダーやクィア・アートが注目され、展覧会や研究が盛んなこと、また鹿児島市が同性パートナーシップ制度導入の前後に学ぶ機会を作りたかったことが背景にある。

 

しかし今回はアートの話ではなく、LGBTQや理解増進法そのものについて勉強会を開催した。なぜなら、文化芸術活動や街づくりなど、人の営みに関わる全ての土台には人権が守られることが大前提であると考えるからだ。いま日本の各地で起こっているLGBTQへのバックラッシュ、そして当事者からも批判が多い理解増進法について、何が問題で当事者たちの具体的な困りごとはどういったことか、それぞれ鹿児島在住の当事者と専門家を招き、直に話を伺った。

 

成立までに紆余曲折があった通称「LGBT理解増進法」。正式名称を性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」という。その経緯について、いつどの政党からどのような案がだされたのか詳しい経緯をゲストの永里先生に説明してもらった。2021年自民公明両党を含む7党の超党派LGBT議連が法案を作成し、与野党合意していた。にもかかわらず、自民党内保守派の反対で国会に提出されず。再び日の目を見たのは今年2023G7広島サミット直前。ここからさらにすったもんだがあり、サミット前には成立せず、立憲・共産案、与党修正案と幾度も言葉が書き換えられ、最終的に与党が維新・国民民主案を一部取り入れ6月に可決・成立。これだけ紛糾した要因の一つは「差別は許されない」という文言と、最終的に付け加えられた「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」をめぐるものだ。

 

当事者が願っただろう差別の解消や禁止は、この法案では実現しなかった。差別には①法律や制度レベルでの差別(例 出生時に割り当てられた性別と異なる性別の格好をすると刑事罰など)、②社会レベル、個人レベルでの差別(例 性自認により学校でいじめられる、内定を取り消される、親から暴力を受けるなど)があり、さらに既存の法律や制度の保護から外されているという差別もあるそうだ(同性カップルは結婚ができない、在留資格など)。データに示された、当事者の自死率や自死念慮率の高さは想像以上だった。これは命や個人の尊厳にかかわる問題であるから差別を禁止しなければという言葉が響いた。明治期から続く女性の権利向上にしても、差別を解消するきちんとした法の制定があったからこそ集会の自由も選挙権も、雇用の機会均等も得られた(賃金格差や意思決定の場に女性が少数など課題もまだあるけれど)。「もしこれが女性理解増進法だったら今頃どうなっていますか?」との永里先生の問いはとてつもなく重い。

 

「全ての国民が安心して生活する」こと自体は誰も異論がないかもしれない。しかしなぜこの一文が追加されたのか、追加されたことによって何が起こるのか、そもそもこの法は誰のなんのためだったのか原点回帰し、今後の運用を注視していく必要があるだろう。

 

当事者が性自認や性的指向を公表しない状態をクローゼットという。ゲストのみのるこさんの話を聞き、「男らしさ」「女らしさ」が求められる保守的な鹿児島において、LGBTQの当事者が自分らしく生きることは容易くないと想像した。せめて居場所づくりのためにと、交流会開催など活動を続ける人々のその努力と勇気たるや。差別や偏見のため当事者の声がおのずと小さくなってしまう現状を少しでも変えるために、自分にできることは。共にあり、共に生きていきましょうという態度を示すことくらいしか今はできない。ジェンダー平等をみても、のろい歩みではあるけれど少しはましになっている印象だ。その時々の状況を見ながら少しでも行動できれば。

 

みのるこさんには「LGBTQの基礎的話」として性のあり方の4つの要素(からだの性、自分が思う性、好きになる性、表現する性)が掛け合わされること、すべての人が持っているSOGI(性的指向・性自認)の話があり、この法が見る人によって印象や解釈がちがってくる可能性があること、鹿児島のLGBTQをめぐる行政や学校の動き、SNS上での激しいバッシングはバーチャルではなく現実世界で起こっている暴力であるということ、アライ(味方)の存在が心強いことなどが語られた。

 

続いて同性婚とトランスヘイトをテーマにしたクロストーク。ここで新たなゲストの紹介。この勉強会をウェブで告知した夕方、ryuchellさんの悲報が入った。その後、当初予定になかったが、トランスジェンダーの当事者が思いを直接語りたいと提案があり、ぜひにとお願いしてクロストークに加わってもらった。その方が語った言葉の抜粋を最後に記します。


 

 LGBT理解増進法が議論される中で、「LGBT差別禁止法ができると心が女性だと言えば女湯や女子トイレを利用できる」とか「トランスジェンダーは加害者で、自分たちは被害者だ」とか、「女性スペースにトランス女性が来たら、痴漢と見分けがつかない」などの、トランス女性を性暴力の加害者であるかのような、トランス女性をターゲットにしたバッシングが拡散しています。

 

この問題はそもそも、「性的欲求を満たすために」男性が女装して女性トイレや女性側の大浴場へ入ることが問題であり、女装=トランス女性ではないし、心が女性というだけで女湯に入れる訳がないのに、あたかもそういうことが起きるかのようにデマを流す人がいて、それを信じてしまう人がいる。不安になった女性がトランス女性にその不安をぶつけることもあるようです。

 

赤ずきんちゃんのおばあさんがトランス女性だとしたら、おばあさんの服を着たオオカミが性加害者です。見た目と中身は全くの別物です。

 

性加害者の多くは男性です。では、男性=性加害者と言われたらどう思いますか。この会場にも男性はいるし、自分の家族や身内に男性は存在していると思います。私も言われたら嫌です。男性=性加害者ではないのは明らかです。

 

このような間違った認識でトランス女性の方々がどれほど生きづらい思いをしているか、どうか自分ごととして想像してほしい。SNSのデマが現実の暴力につながり、居場所を奪い、命を奪うということをわかってほしい。
 私自身も、本当にそうなんですが、普段の生活では言いづらい。別の性になりたいと言うことを、そのまま受け止めてくれるはずがないとか、全ての人が受け入れてくれるわけではないという思いが当事者である自分のどこかにあるからだと思います。自分の性別という根源的なことについて、誰からも批判されたくない。今回のトランス女性へのバッシングもそうですし、それを見たLGBT当事者が、「やっぱり言えない」となってクローゼットに閉じこもる。そしてまたいないことにされる。LGBTすべての人が、自分らしくいたいだけです。
カミングアウトできない人たちをいつまでもクローゼットに押し込めておくような法律ではなく、そして、LGBTでない方々が「無知による恐怖」を押付けず、どうか正しいことを知って、正しい法律を作ってほしいです。

 

 

 

ゲストの皆さま、勉強会のために多大なご協力をいただき、ありがとうございました。
アンケートには「法律制定までの経緯や問題点がよく分かった」「当事者の生の声が聞けて勉強になった」「もう傍観者ではいられない」という声が寄せられました(文責 原田)。



レポート②

 

  撮影禁止録音禁止の実効にこれまでで一番気をつかった運営でした。 「性はグラデーション」この表現をすべての基本にすえて暮らして 仕事にも臨んでいます。 人権の平等確保の実現。というシンプルな基本をなかなか基本とできない 私たちの社会のいまをゲストお三方のお話から切り取り、浮き彫りにして いただけました。主催の一員なのに、あれですけど力強い素晴らしい時間を プロデュースできたと思います。

 トランスジェンダー当事者のかたのここまでの生について 命から噴き出すようなことばをたくさん体験できて、帰宅してからたくさん泣きました。 性教育の拡充が必要、SOGI教育が必要、ジェンダー平等の理解促進が必要、こうしたことを すすめると伝統が壊れるとかフリーセックスが蔓延して社会が滅茶苦茶になると本気で案じていらっしゃる方との 対話が必要。SOGI以外には四半世紀意識をもって言動してきているけど、まだまだですね。 本当にまだまだ。 だからこれからも楽しく刺激的な企画をできるだけたくさん開催して 社会教育にはげみ、それを通して社会の民主主義を実現したいですね。 お互いを大切に、好きな人どうしが差別に苦しむことなく、さまざまな権利の平等を確保して生きていける時代を一日も早く 確立できるようにいきていきます(文責 のぐち)。